top title

 

sketch768.

NEXT
HOME
BACK

9月17日

NEXT

佐野眞一氏の「津波と原発」を読みました。先に佐野氏の力作、「巨怪伝(正力松太郎氏についてのノンフィクション)を入手しておりましたが、

1000ページ近い本の分厚さに読みあぐねていたので、正力氏と原発の関係について、もう少しダイジェスト版的に概要がつかめる本書を

先に読んで「巨怪伝」に(私の頭が)入り易いようにしておきたかったからです。

 

本書は、あちらこちらで佐野氏が書いた文章がベースになっているようで、エッセンス的な内容ではありますが、それゆえに読みやすく、

大手のメディアが切り込むことができない、佐野氏ならではの切り口で日本における原子力政策をめぐる小史を知ることができました。

しかし知れば知るほど、問題の根の深さに圧倒され、なにを語って何から手を付けるべきかすらわからないのが正直なところですが、

これからの日本の未来を考えるうえで、この原子力政策の成り立ちの歴史を多くの人が知らなければ前に進めない、と思いました。

 

敗戦の記憶が冷めやらぬ被爆国日本で、しかも第五福竜丸がビキニ沖のアメリカの水爆実験で被爆した惨状が伝えられていた時に、

正力氏により読売新聞などで原子力発電キャンペーンがうたれ、原子力発電を導入する動きが国民に受け入れられていったこと。

まだ、発電用としてはイギリスもアメリカも実用化にたどり着いたばかりだった原子炉を日本に導入することになったいきさつ。

福島の双葉町などが原子炉設置場所に選ばれた事情と背景。

日本の電力会社が今のような独占企業状態になったのは、戦後GHQとの絡みがあったことなど。

 

聞けば聞くほど、原子力導入の強引さは日本の戦争拡大と、また、今回の原発事故にしても、東電や経済産業省などの当事者が

事後処理を担当することによって責任の所在が曖昧になることは、日本の戦後処理との特徴が酷似していることに驚かざるをえません。

 

詳しい感想は、「巨怪伝」を読んでからにしたいと思いますが、この国が再生するには、歴史をしっかり振り返って同じ過ちを繰り返さないために

何を見聞きして物事を判断し、行動すべきかを考える国民が一人でも増えないことには始まらない、と思いました。

 

追記:録画してあったNHKの番組「アメリカから見た福島原発事故」を観ました。非常に優秀なドキュメンタリー番組と思います。

福島第1原発は、アメリカでも実用化間もなかった発電用原子炉第1号のマーク1型と呼ばれる設計の原発だそうです。

設計から15年後にはこのマーク1型の設計上の問題点(コストダウンのために格納容器が非常に小さく設計され水素爆発の対策がしにくい。)が

指摘されていたにも関わらず、アメリカの経済優先の発想が元の政治的圧力によって、結果的に必要な対策が行われてこなかったこと。

また日本でも、マーク1型の構造上の問題点が指摘されてもベント設備をとりあえず加えただけで、

原発は安全という前提で対策を行ってこなかったこと、危機の時のために非常時の予備用ディーゼル電源を増やす際にも、

他のディーゼル発電機と同じ地下に加えたために、津波で同時に使えなくなってしまったことなど、予防の意識の甘さが目立ちます。

 

今回の原発事故と同じような事故を起こさないためにも、科学的な検証はもちろん、政治的な、また責任者らの、

心理的傾向(希望的観測での過度の楽観視による予防の甘さ)なども検証し、未来の事故をかならず防ぐ体制を築いてほしいものです。

 

(5月に訪れた高遠城址にて)